光合成細菌の使いかたなどについて説明します。
光合成細菌を、田んぼの土や生活用水が流れ込んでいる川の川岸のヘドロなどから、種菌として摂取し、培養して、放射能汚染を含めた環境の浄化と、農作物の多収や高品質化に役立てる方法が、おもに農業や畜産業の間で、再び注目されてきているとされます。
光合成細菌を使うメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
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- 農作物の収量の増加
一例として、稲への効果を見ると、収量が115%増加していることが確認されているとされます。長野県農林研究財団から、長野県公認の普及事業として認められているとされます。
- 農作物への耐ストレス性付与
光合成細菌を与えた野菜や穀物は、植物への耐ストレス付与効果が高くなるとされます。具体的には、従来よりも高温や低温、乾燥、塩分に耐えられるようになることが確認されており、中国やサウジアラビアの砂漠地域での農業復興に活用されているとされます。
- 農作物の生育や品質向上
光合成細菌が、放線菌など、ほかの微生物の餌として利用されることで、糸状菌の割合が低下し、放線菌の割合が多くなり、土壌中の病原菌とされるフザリウムやビシウム、リゾクトニアなどを溶菌して減らし、病気を抑える効果があると考えられています。また、貯蔵に好影響を与えたり、腐敗防止効果が起こることも推定されています。
ほかにも、光合成細菌は、菌体成分に蛋白質やビタミン類を多く含むため、食用や飼料としての利用に効果があるとされます。
1970年代に、光合成細菌を使った排水処理場が100基以上作られて、第1次ブームがあったようですが、今は第2次ブームとも言える状態になってきているようです。
たとえば豆腐の工場などに、光合成細菌を使った汚水処理設備が入っており、そうした設備で浄化した排水を流す際に、排水溝に魚がたくさん集まってくるので、近所の子どもが網を持ってやってくるそうです。
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筆者が使ったことがあるのは次のもので、使う際には、光合成細菌を単独で使うよりも、乳酸菌や酵母と合わせたほうがよく働くということで、EM1の発酵液と併用しました。使いかたは、単純な、希釈して土にまくという方法です。
独特の匂いがあります。
種菌の摂取が面倒という方には、いろいろな光合成細菌が農業関連のバイオ資材として売られているので、こちらを使うのも手ですが、ピンキリらしいので、信頼できそうなものを選ぶとよいと思います。猛者の中には、購入後に、顕微鏡で微生物を確認するといった話も書かれていました。
また、こうしたバイオ資材を調べていくと、培養のしかたなども公開しているサイト(微生物資材EM販売 イーエムテックフクダ 光合成細菌の培養方法)があります。
筆者の確認した書籍では、いろいろな人が、いろいろな方法で培養しているようですが、餌としてブドウ糖を入れるとよい、という話もあり、自分で試行錯誤するのも面白いかもしれません。
取り組んでいる農家の方の話だと、市販品は高いし、顕微鏡で見てみると、ぼったくりのものもあるということです。
また、上級者向けですが、自分で種菌を採取できます。
光合成細菌の特徴は、次のようになります。
- 湿気を好む。乾燥や高温には弱い
- 好きな温度は25~35℃。日本の田んぼでは、5~6月頃が採取に最適
20℃以下または40℃以上の環境では、あまり生息しない。真夏になり、田んぼの水温や地温が45~50℃以上になると死んでしまう。ただし、冬場の低温には割合強く、数は少ないものの、田んぼの泥の中でひっそりと生きている。 - 田んぼの土や水、池や沼地の底の泥、汚れた用水路の底にあるヘドロなどに多く生息
- 農薬に弱い
除草剤や殺虫剤など、化学薬品が多く使われている田んぼにはあまり生息していない。 - 酸性に弱く、アルカリ性に強い
pH6~9を好む。つまり中性から弱アルカリ性環境を好んでいる。硫黄除去のほかに、作物の生育にもいい影響を期待するなら、pH6~9を好む紅色非硫黄細菌が多い光合成細菌を使うのが良い。
ただし、紅色硫黄細菌など、酸性に強い光合成細菌もいる。
光合成細菌は、約30億年前、地球上に酸素がほとんど無かったとされるころ、最初に誕生した生命の仲間とされ、光をエネルギーとして使える能力を獲得したとされる微生物で、現在、代表的なものが4種類、細かく分類すると約50種類が分かっているとされます。
日本では、田んぼや池、土など、身の回りにある自然の中で、豊富な有機物がある嫌気的な環境の中には、どこにでもいる細菌の1つとされます。そして、季節の変わり目などに大増殖して、環境の浄化に役立っているとされます。
光合成細菌の餌は、悪臭のある硫化水素であったり、有害な有機酸であったり、果ては放射性物質であったりする訳ですが、光合成細菌はそれらの有害物質を餌にして、アミノ酸やビタミン、蛋白質を生成するとされます。
光合成細菌の、光合成のしくみをまとめると次のようになります。
- ふつうの植物の光合成のしくみは、光のエネルギーで水を分解し、酸素を発生して、生育のエネルギーを得ると同時に、二酸化炭素の固定を行って、澱粉や蛋白質などの有機物を合成する。この光合成は、酸素発生型光合成(PS1とPS2)と呼ばれる。
ただし、実際には、酸素発生型(PS1)と非酸素発生型とを併せ持って、連携して光合成を行っているとされる。 - 光合成細菌の光合成のしくみは、光のエネルギーで、無機の硫黄化合物や、有害とされる有機物を分解して、生体エネルギーを得る。水を分解して酸素を発生させることはできない。この光合成は、原始的な光合成とされ、非酸素発生型光合成(PS1)と呼ばれる。
こうした光合成細菌の作用を、現代的に使っているものの1つが、ALA*(5-アミノレブリン酸)と呼ばれるものであるようです。
ALAは、肥料やバイオ農薬、医薬品など、様々な分野で応用が期待されており、すでに使用範囲が大きく広がってきているようです。
一方、放射能汚染の除去については、多孔質セラミックに固定化した光合成細菌(ロドバクター スフェロイデスSS1株)などを使うことで、高い効率でウランやコバルト、セシウム、ストロンチウムの除去に成功しているとされます。
現在は、およそ4~5万ベクレルの放射能汚染まで実用化が進んでおり、10万ベクレルのレベルに対応できるように、研究を進めているそうです。
ただし、全ての汚染が除去できるのかというとNOなようで、除染実験では、土壌でおよそ70%の放射能除去を達成とのことです。
しかしながら、残留した放射性物質は、野菜への移行が不可能になっているとされます(筆者も、いまいち理解できていないのですが)。
こうした技術を応用したり、その他の微生物関連の技術を結集したりすれば、福島をはじめ、関東圏の放射能汚染はおそらく除去可能であろうと思いました。
光合成細菌 採る・増やす・とことん使う 佐々木 健、佐々木 慧 著 農文協 より、以下を引用します。
図7ー9に、光合成細菌の放射性セシウム土壌除染と野菜への放射能の移行のメカニズムを示します(佐々木仮説)。
光合成細菌SSⅠ株は、放射性セシウムを菌の表面に吸着します。これは既に述べた菌の表面のEPSによるものです。さらにSSⅠ株は強力なカリウムポンプによりカリウムとセシウムを一緒に菌体内に取り込んで除染していることがほぼ確定的になりました。カリウムポンプとは、植物が栄養源であるカリウムを根から植物体内に取り込む、重要な働きです。どの植物にも備わっています。セシウムはカリウムと性質が似ているので、カリウムと一緒に植物体内に取り込まれるのです。
しかも画期的なことは、このカリウムポンプが野菜の根のそれよりも強力で、光合成細菌で除染すると、野菜に移行する(移行できる)土壌中の放射性セシウムは、既にほとんど光合成細菌に取り込まれており、もはや野菜に移行できなくなっているのです。
さらに、福島の土壌放射能の多くは有機質と結合した状態(有機質―Cs、フルボ酸―Cs、フミン質―Cs)で存在していると推定されており、これらも光合成細菌が優先的に取り込んで、野菜に放射能が移行しないようにしていることが、実証試験で明らかになったのです(学術的に検証中)。ですから、光合成細菌で除染処理した土壌に放射能が残っていても、それは土壌結晶に化学的に強く結びついた結合性のセシウムで、これは野菜には移行できないのです。
EPS=菌体外高分子物質。
また、放射能に汚染された水も浄化できるとしています。
同じく、上記書籍から引用します。トリチウムについては記載がありませんが、ストロンチウムは除去可能だそうです。なお表は引用しません。
この磁石回収型のトライポット型多孔質セラミックによるウランの結果を、図7―6に示します。約2日でウランのほぼ100%が除去され、人工下水の汚れ成分であるCODやリン酸イオンも同時に除去されていることがわかります。ストロンチウムも同様に、3日でほぼ100%除去されていることがわかります(データは省略)。つまり、放射能汚染された汚れた水も浄化できるということです。
最後にポイントをまとめておきます。
- 光合成細菌は、田んぼや池、土など、身の回りにある自然の中で、豊富な有機物がある嫌気的な環境の中には、日本のどこにでもいる細菌の1つ。季節の変わり目などに大増殖して、環境の浄化に役立っているとされる。
- 光合成細菌は、農作物の収量増加や生育向上、品質向上、環境の浄化に効果があるとされ、農業や畜産業でも使用が広がっている。品質には注意が必要だが、バイオ資材として、簡単に入手でき、個人でも抽出や培養が可能で、方法も公開されているので、自給生活では積極的に使うべきと思われる。
- 光合成細菌は、放射性物質を含めた有害物質をエネルギー化する。光合成細菌など、微生物の専門家を結集することで、関東圏の放射能汚染の除去が期待できそうである。
* ALA:
ALA(5-アミノレブリン酸)とは、5-AminoLevulinicAcidの略で、動物や植物の生体内に含まれる天然のアミノ酸を指す。近年、医薬品や化粧品、肥料など、ALAを使った製品の研究開発が広範囲に進められている。
参考の外部リンク: コスモエネルギーホールディングス株式会社 5-アミノレブリン酸(ALA)とは
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